遠回りは面倒だが役に立つ ~英語リスニング編②-1 サスペンス小説~
ある時、あるところで、十名ほどの高校生に英語を教えていたことがある。その時にリスニング教材として、当時大々的に宣伝されていたイングリッシュ=アドベンチャーを使ってみることにした。アメリカの大ベストセラー小説家シドニー=シェルダンが日本人のために書き下ろした(!)サスペンス小説「追跡」(原題 “The Chase”)の全編を名優オーソン=ウェルズが朗読したものだ。
序章こそ分かりにくいが、「マサオはハンサムな男の子だ」(Masao is a handsome boy.)の書き出しで始まる第1章からはシェルダンお得意のハラハラドキドキの展開が続いていく。それをオーソン=ウェルズがドスの利いた迫力ある朗読で演じるのだ。12章立てになっていて、ひと月に1章ずつ配布され、カセットテープと単語・文法の解説書がついてくる。そうやって、1年かけてサスペンスドラマを楽しみながら英語力をつけていくことを目標とする教材だった。
これが高校生たちに大いにうけた。ひと月に1章なんてまどろっこしい、早く次の章を聞かせてくれ、いや次の章どころではなく最後まで一気に聞きたい、という声が続出した。アメリカで陰謀に巻き込まれた日本人高校生マツモト=マサオ君の冒険を皆が手に汗握りながら追っていたのだ。悪の手の追跡との頭脳戦あり、その合間にロマンスあり、意外な大どんでん返しあり、しかも各章がいいところで終わるという連続物の常套手段を取っている。面白くないはずがない。
これはある意味で理想的なリスニング教材だった。先を聴きたい、もっと聴きたい、と意欲を掻き立ててくれる「楽しみながら聴ける」内容だったからだ。しかも、日本人の高校生でも充分楽しめるほどの英語で書かれていた。つまり、複雑な英語表現なしに書かれていたのだ。内容が楽しめて、読んだり聴いたりするのに苦労しない、ちょうどよい教材だったというわけだ。
続く・・・
記:英語科主任 佐々木晋