呟き⑦(大学・学部・学科の新設と定員について)

2022年の春の新設を目指して許可申請が行われた大学の学部・学科と、昨年10月までに申請された大学の新設を加えると、来年の大学入学定員は2975人増える可能性があるということです。 日本では依然として少子高齢化が進行中で、受験生の数は減ることはあっても、増えることはありません。にもかかわらず、大学の定員を増やすというのです。もし文科省が2975人の定員増を許可すれば、日本の大学はますます“広き門”となってしまうことでしょう。

今回の申請を具体的に見てみると、まず大学の新設申請の4大学について、いずれも看護学部が設置予定という共通点があります。そして学部の新設の方でも、申請された6校8学部の内、5大学の新設5学部は、日本医療大学(北海道)医療福祉学部の新設をはじめとして、医療系の学部や看護学部を新設したりしています。まさに高齢化社会を反映していると言えます。 学科の新設と、専門職大学(専門学校を大学にしたようなもの)の新設についても、日本医療大学で保健医療学部に臨床工学科を新設するのをはじめにして、医療・看護系の増設のオンパレードです。医療の進歩に伴い、学ぶべきことが増えて短大や専門学校のカリキュラムでは履修が厳しくなってしまうせいか、医療系・看護系の専門学校や短大は、どんどん4年制大学に替わりつつあります。さらに、高齢化社会や今回のコロナ禍で医療現場は慢性的な人手不足が続いています。ニーズが高まることはあっても、減ることはなさそうなので、今後もこの傾向は継続しそうです。当然、『看護学部を新設しない理由が見当たらない』という結論に達してしまうようです。しかも、4年制大学の看護学部のほうが受験生が集まるようです。こうして少子化で子供は減っても看護大学を中心に大学の定員は増え続けているのです。

それにしても、大学の経営環境については、数年前の予測とは全く違う実態となってしまった事になります。即ち、少子化によって2009年頃には大学全入時代に突入し、人気のない大学は定員割れが常態化して経営が悪化、次々と倒産していくという報道が2010年代には一般でした。しかし、結果としてそういった噂のあった大学や短大で倒産したところは少ないのが現状です。実際、2000年から2021年にかけて、経営の悪化で潰れた大学は16校に過ぎません。現在も短大や専門学校の4年制大学化が進行しており、大学進学率が高止まりしているのは事実でも、まだまだ微増する傾向にあるのです。 一時期マスコミを騒がせた“Fランク大学”(河合塾が「ボーダーフリー」と呼んだことに由来する)も最近はさっぱり耳にしなくなりました。その上、国が2016年から『私立大学における入学定員の厳格化』を始めると、上位大学から中堅大学が軒並み合格者の数を絞り込み始めました。その結果、その下のレベルの私大に受験生が流れ込み、倍率が回復してしまったのです。こうして「少子化なのに大学の定員は増加中」という現象は、来年以降も続くことになるのでしょう。

記:情報室長 高縁博