「リモート授業と学費」について、私大に大変革の可能性

先般、(コロナ禍の下での「ある私立大学」と「学生」)をめぐる、悲しい?訴訟の口頭弁論が行われた。

◎ コロナ禍を理由に対面授業をしないのは大学が契約義務を果たしていないとして、学生(19)が損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が8月25日、東京地裁立川支部であった。当該大学側は「コロナ禍では教育の提供に大きな制約を受けることは当然だ」と請求棄却を求め、答弁書で対面授業の実施は義務ではないとした上で、実験や実習科目などは対面で行ったと主張。施設を利用できなかったという原告の訴えにも一部の施設は利用できるようになっていると反論した。 授業をオンラインのみにした理由は「十分な感染対策をしても対面授業は困難と判断した」と説明し、学生アンケートでも、授業を「満足」とした回答が大半で、成績の平均値もこれまでとほぼ同じだったことから授業の質は落ちていないとした。

現在、私立大学の教育と経営はオンライン授業の浸透で大変革の可能性を秘めています。経営的な面では、多くの私大はオンラインの問題と相俟って、施設整備の規制緩和によるコスト削減を要望していますが、当然 学びの質の確保に課題が残っています。大学生の8割は私立大に在学するのですから、この議論は重要です。 日本私立大学連盟(私大連)は「ポストコロナ時代の大学のあり方―デジタルを活用した新しい学びの実現」という提言をまとめています。文部科学省の大学設置基準は対面授業を前提に設定されているのですが、オンライン授業の増加に伴って、校地面積や校舎などの施設、運動場、図書館の設置基準の細かな規制について緩和を求めているのです。

私大は授業料や施設費などの学費が基本収入です。この収入を「人件費」、「施設・備品」や「IT関連」の支出に充てるわけです。私大連は「(設置基準の変更で)施設費を抑えれば授業料は低くできる。」「1科目当たり授業料の設定も視野に入る」と説明します。その上で実習・実験や人間形成の場の充実は、各大学の独自性に委ねるべきだというのです。オンライン授業が定着すれば 大規模施設はさほど必要ではない、というわけです。「オンライン授業で教育サービスが不十分なので授業料引き下げを」という学生らの声に応えることにもつながる―なるほど、説得力のある主張ではあります。

しかし他方では、多くの学生と保護者は、サークル活動や同級生とのリアルな交流の場(施設を含む環境)を期待しています。対面のキャンパスライフが少ないと、教員の研究活動や大学の将来を中長期視点で支える意識も弱くなるかもしれません。

「1科目当たり授業料の設定」についても、確かに社会人の学び直し(リカレント)教育においては、科目ごとの授業料設定は有効ですが、実践的教育とリアルなキャンパス体験が損なわれる懸念も大いにあります。オンラインの利便性なら、放送大学や通信制大学がすでに存在します。学生が求める学びの質の確保という根本からの教育改革に取り組まなければ、底の浅いコスト削減対策に終わってしまう恐れすらあります。 ポストコロナの社会・大学像はすぐには決まらないようですし、決めるべきでもないのかもしれません。私大同士や私大と国公立大の統合、私大の公立化等の問題を含めて、極端な少子化を前にして難題が横たわっています。
記:情報室長 高縁博