リスニング力は上がったのに…

リスニングにおいて、「集中して聴いたら、なんとか理解できるようになってきた!」と思って必死に聴いていたら、いつの間にか音声が終わって頭の中には何も残っていない……そんな経験はありませんか。こういうことはリーディングでもあり得ることでしょうが、リスニングで特に顕著なことでしょう。こういったことに対して先生にアドバイスを求めると「メモをとりなさい」「集中していないからだ」「大問〇ではこういう書き込みをしなさい」などと言われることでしょう。
共通試験のリスニングには特殊な作業がありますので、しっかり試験を研究している先生ほど適格な指示をしてくださることでしょうが、これには大きな落とし穴があります。

人間の頭には限界があります。ワーキングメモリまでの話にはなりませんが、リスニングでは単純に①情報を聴いて、②解釈をしながら、③記憶をする、という3つの作業を同時にしなければなりません。
②解釈をする、とはここではパラフレーズを行ったり、共通試験では図表に必要な情報を入れていく、などリーディングと同じ作業をしているわけなので、ここに脳の容量を割いているという状況は理解しやすいと思います。
しかし①③のような行動にもある程度脳の容量を割いてしまう、というのはもしかしたら意外なことかもしれません。言わば、この3つの作業のうち、①②でいっぱいいっぱいになってしまっているのが、「いつの間にか終わってた」「何も覚えていない」という状況です。③記憶する、にもある程度の脳の余裕が必要なのです。

こういった状況で、例えば上記で述べたようなアドバイスを「次の模試でやってみよう」と思って実行するとどういったことが起こるでしょうか。先生が教えてくれたコツで上手く点数がとれるならあなたは脳の容量の問題ではなく、具体的な作業内容に難を抱えていたことになります。しかし何故かいつもより点数が落ちてしまったということが起こったのなら、その理由は単純です。①②でいっぱいになっていた状態に更に作業を増やそうとするのですから、上手くいくわけがありません。

①聴くという行動で極端に負荷がかかっている状態なら、ディクテーションやシャドーイングという重りをつけて練習し、ただ聴いている状態に負荷を感じないようにしなければなりません。
②解釈に負荷を感じるのならば、実はリーディングを通して勉強していった方が得策です。先ほどのアドバイスについては、それが負荷に感じないように十分な練習を行ってから模試で試すようにしないと、今まで出来ていたことまで出来なくなります。英語教育は特に現実に即していないアドバイスが世の中に溢れていますが、それ以上にアドバイスを適切に実行するまでのビジョンも持っていないとなりません。

学んだり教えてもらったりしたらすぐ成績が上がる、というのは幻想です。自身の弱点-ここではどの作業に脳の容量を割いているか、を理解してそこにかかる負荷を減らす練習をすることが、リスニング能力の向上には不可欠です。実際は、英語が苦手な人のほとんどが語彙処理にかかる負荷を減らすと単純な解釈速度があがりますので、それだけで一気に成績の改善につながったりします。
記:英語科 許士祐之進