これからの教育について

(2024年の大学入試改革までの「流れ」のまとめ)

日本の教育はいま、大きく変わろうとしています。2020年に改訂された学習指導要領により、カリキュラムの方向性と教科書自体が大きく変わりました。

そんな一新された教科書で学んだ世代が初めて大学受験を迎える2024年の大学入試に至るまでの過程について整理しておきたいと思います。

そもそも、教育は社会の変化とともに変遷するものです。

少し前の時代と今とでは、働く環境がまったく違います。今は PC等の便利なツールが大いに普及して、情報を集めたり整理したりする事務処理的な仕事はかなり効率化されました。しかし、これらの便利なツールで情報を集めたり、整理したりすることはできても、それをどのように活かし、仕事につなげるかを考えることは、まだPCやAIには完全にはできません。多くの情報を分析し、新たな価値のあるものを予測し、生み出すのは、今のところ人間にしかできないのです。これからの社会では、このような「人間にしかできない能力」が求められるようになりそうです。そして、それを育む主たる場所は学校以外にはあり得ません。教育は社会の変化とともに変遷していくべきものなのですから、「人間にしかできない能力」として挙げられている「思考力」「判断力」「表現力」を育む教育こそがこれからの教育であるべきです。

思考力とは簡単に言えば、「あれこれ考える力」です。ただ、ここでいう「考える」はテストの問題を考えて正解を出すようなものとは少し異なります。私たちは生きていくうえで、さまざまな事態や出来事に直面します。そしてそれら多くの未知の出来事には はっきりした「正解」がありません。このような状況下で、よりよい方法や解決法を見つけるのには、真の意味での思考力が必要なのです。「考える」には、まず対象となる「課題」があり、「分析」→「解釈」→「検証」の3つのステップを踏んで、その課題を解決していきます。

物事を考えるには、その元となる知識や情報が必要です。従来の教育では、この知識を増やすことに重点が置かれていました。しかし今は、これらの知識や情報はインターネットで簡単に手に入るため、知識を増やすために努力する必要はなくなりました。しかし、知識が不要というわけではありません。知識がなければ、考えることはできませんし、知識が多ければ多いほど、最善の方法を考えることができるのですから。知識を得るために必要な力が読解力です。新しい大学入試は問題文が長くなり、複数の資料から情報を読み取るなど問題構成に変化があったのはこういう理由なのです。それは「考える」前段階に必要な情報収集、すなわち読解力があるかどうかを測るためです。

判断力は「こうだと決める力」です。スマホ一つでありとあらゆる情報を手に入れられる今、正しい情報を的確に見極める力がこれまで以上に必要になっています。物事を判断するには、現在の状況を把握し、いくつかの選択肢を比較し、そのうえで「自分はこうだ」と決断する力が必要です。「自分で判断し、決断する」ことは、自分の人生を主体的に生きることにもつながります。

表現力は、「さまざまなものを出力する力」です。人は一人で生きてはいけません。さまざまな人間関係の中を生きていくには、自分の考えを相手に的確に伝える力が必要です。その際に気をつけなければいけないのが、「事実」と「意見」を分けることです。論理的に話せない人は、事実と自分の推測や意見を整理せずに話す傾向があります。グローバル化が進んでいる昨今では、日本人特有の「察する力」を相手には期待できないので、筋道を立てて伝える力を身につけていかなければなりません。

社会の変化に応じて10年に一度、学習指導要領が改訂されます。「ゆとり教育」から「脱ゆとり」へと進みましたが、ゆとり教育のときから始まった「思考力」「判断力」「表現力」の3つの力の育成はそのまま継続されつつ、ゆとり教育の反省から再び学力重視の流れに変わったのです。ただ、大学入試の中身が従来の知識を中心としたものだったので、結局のところ大学受験のための勉強をしなければならず、国が掲げている理想の教育と現実の教育の間に乖離が生じたままだったのです。

これらの流れを受けて、今回の改革が今までと大きく違うところは、各教科の教科書に「思考力」「判断力」「表現力」を伸ばすための工夫が見られるようになったこと、そして大学入試の内容自体が変わったことです。 2020年に小学校から始まった新学習指導要領は、2021年には中学校、2022年には高校でも実施され、小中高の教育がここでようやく一貫します。このような流れの中で、2020年度の入試は確実に変わったと思われます。この後2年間の移行期間を経て、2024年度入試から新しい大学入試が本格導入されます。現在よりさらに実社会を意識した内容になっていくと思われます。まさに、日本の教育はこれから大きく変わろうとしているのです。

記:情報室長 高縁博