これからの大学が進むべき道筋
私見によれば、今後少子化が進み18歳人口がますます減少し、教育課程のみならず教育制度自体が改変される可能性を秘めた教育改革が数年後に迫ってきている現状で、大学の経営のみならず大学教育自体についても、大きな改変が迫られる時代が到来しつつあるようです。昨年(2021年)の4月のほぼ同時期に、私大3大学と国立3大学について、それぞれアライアンスの締結・経営統合のビッグニュースが飛び込んできました。以下、約9か月が経過して新年を迎えた段階で、その内容を再検証してみたいと思います。
東海大学、近畿大学、帝京大学は、大学の枠を超えて教育、研究、経営などで協力する「私立総合3大学アライアンス」を締結しました。医学部を擁する日本有数の規模の私立大が協力することで、「コロナ後」を見すえた、教育・研究・医療・経営の高度化を図る狙いのようです。
コロナ禍によって授業のオンライン化などこれまでになかった課題に直面し、大学のあり方に関して、急速な変化が予想されることを受け、「コロナ後」も見すえ、教育・研究の成果をより高めて社会に還元することを目指した提携のようです。
具体的には、まず今年度からNHKの番組111本を教材として活用する数億円規模とみられる契約を3大学が資金を分担して実現しました。「NHKスペシャル」や「プロジェクトX」など教育効果が高い番組を授業の副教材にしたり、学生が自由に視聴したりできるようになります。さらに今後の取り組みとして、教職員の研修の共同実施や、大学のシステム基盤やセキュリティ対策の共有、付属病院の医薬品の共同購入、医療の共同研究、国際的な広報の共同実施などが挙がっているようです。
1本の矢でもそれぞれ強い私立大学が『3本の矢』になることで、より強固な活動ができるはずです。単なる単位互換などにとどまらず、アフターコロナを見すえて、授業方法やイベントを見直すことも視野に入れ、単独ではできない新たなチャレンジをするために3大学が連携し大学界のフロントランナーをめざそうとしているようです。学部構成は似ているけれども建学の精神や特徴は違う3大学がアライアンスを組むことで切磋琢磨して成長し、シナジー効果を生み出すことに意義がありそうです。3大学の学部数と学部学生数(2020年5月時点)は、東海大学が19学部・約2万9千人。近畿大が14学部・約3万3千人、帝京大学が10学部・約2万2千人。合計8万4千人の学生が3本の矢として結ばれることになります。
同じく昨年4月に国立大でも小樽商科大・北見工業大・帯広畜産大の3国立大学法人が、一法人複数大学制度の下、国立大学法人北海道国立大学機構として今年(2022年)の4月に経営を統合することに合意しています。新法人の本部は帯広に置き、役員会トップの理事長は学外から選び、3大学の教育研究活動の活性化を図る「オープンイノベーション・センター」を設立します。法人を一本化することで教育や研究の連携を目指すほか事務部門の効率化を図ることになります。各大学の名称やキャンパスはそのままで、入学試験も従来通り各大学ごとに実施します。各大学の学生が自由に履修できる連携教育プログラムを実施します。スマート農畜産業や観光ビジネス、防災などで連携研究プロジェクトに取り組むことになっています。経営方針は北海道の経済界と連携を密にし、実学を担う機能を強化して北海道の持続的発展に寄与することを目指そうとしています。
どうやら、これからの大学はその規模や国公私立の違いすらお構いなしに統合・吸収合併・提携等が進みそうな勢いです。これも時代の要請であって、そもそも国公立大学が独立行政法人化した時点で、国公立大と私大の違いについて、区別する実益が薄れてきている感があります。
今回は提携・統合の事例を挙げてみたわけですが、実は私大に関しては「公立化」が全国的に進行していて、これも又 一つの生き残りの有様になりつつあります。「提携(アライアンス)」「統合」「公立化」は確かに、国公私立を問わず、生き残りをかけた、これからの大学が進むべき道筋を示しているようです。
記:情報室長 高縁博