受験生にお茶を出すことの意義

抹茶のストレス軽減効果について学術的に考える

緑茶の葉に最も多く含まれているアミノ酸はテアニンと呼ばれています。緑茶特有の成分で、旨味成分として知られており、マウスやヒトに対する優れたストレス軽減効果に加え、いくつかの疾患に対する健康上の利点と薬効が期待されています。また、緑茶に2番目に多く含まれるアミノ酸はカフェインです。カフェインは摂取後30分程度で吸収され、脳-血液関門を通過し脳へ到達します。構造的にアデノシンに似ていることから、アデノシン受容体と結合することによって、拮抗的にドーパミン、ノルアドレナリン、グルタミン酸といった興奮性の神経伝達物質の放出を促進し、間接的に脳を興奮、覚醒させることが知られています。端的に言えば、テアニンはリラックスを、カフェインは興奮を誘導しますが、テアニンとカフェインは拮抗する関係にあります。従って、一概に緑茶効果と言っても、含有するアミノ酸の構成割合に違い(と各薬剤に対する感受性、特に受容体感受性)により、脳への影響が異なることが推察されます。

さて、本題の抹茶についてです。抹茶はテアニンとカフェインを豊富に含みますが、一般的な緑茶に比べカテキンの含有量が少なく、本質的に最高級の緑茶とされています。従って、ストレス軽減や覚醒効果も期待されるのですが、実は科学的には最近まで証明されていなかったようです。今回取り上げる論文は抹茶が与えるストレス軽減作用を動物実験と臨床実験から示した研究です。掲載論文であるNutrientsはここ1−2年で急激に引用数を増やし、IF 6.706とこの領域では極めてインパクトの高い雑誌です。呈茶はストレスの多い受験生にとって経験的に良いものと考え、理事長自ら提供し始めて早10年が経ちますが、一つの学術的な裏付けになりますので一部を抜粋・要約して紹介します。

『Stress-Reducing Function of Matcha Green Tea in Animal Experiments and Clinical Trials』

Nutrients 2018, 10, 1468

掲載雑誌:Nutrients, IF 6.706 

『動物実験と臨床試験における抹茶のストレス軽減作用』

1. 方法:

●茶成分の測定

高速液体クロマトグラフィーによりテアニン、アルギニン、カフェイン、EGCGの含有量を測定し、含有量の違いのよって7つのサンプルを動物実験用に選択した。

●動物実験

・動物とストレス実験

マウスを対立飼育することでストレスを与えてその後副腎の重量を測定することで抹茶のマウスにおけるストレス軽減・抗不安作用を評価した。また、異なる抹茶サンプルを摂取させて違いを評価した。

●臨床実験

これから大学外の病院か薬局で実習する予定の健常な学生39名を対象に、無作為にテスト抹茶とプラセボ抹茶を与えた。日常的な大学生活の7日間と、実習最初の8日間を対象に、毎日体調、主観的ストレス、達成感などに関するアンケートを実施した。また、客観的指標として腺性アミラーゼ活性を測定した。

●統計解析

データは平均値±平均値の標準誤差(SEM)で表した。統計解析は、Student’s t-testおよび一元配置分散分析を用い、多重比較にはBonferroniのpost-hoc testを用いた。

2. 結果:

●動物実験

・抹茶の抗ストレス効果

抹茶摂取量と副腎肥大抑制との関係を検討した。抹茶濃度の違いは食事摂取量や体重に影響を与えなかった。副腎の重量は、抹茶を33mg/kg以上摂取したマウスでは副腎肥大が有意に抑制された。ストレス軽減効果を7種類の抹茶サンプル間で比較した。抹茶1、2、4、6を摂取したマウスでは、副腎肥大が有意に抑制された。抹茶サンプル3、5、7を摂取したマウスでは、ストレスの抑制は観察されなかった。

・各抹茶試料に含まれる茶成分と副腎肥大抑制作用との関係

抹茶からマウスが実際に摂取したテアニンとアルギニンの量を計算した。マウスの副腎肥大を抑制するためには、テアニンは0.32mg/kg以上必要である。テアニン摂取量と副腎肥大の間には、用量依存的な後者の抑制が示された。アルギニンについても同様の相関が観察された。カフェイン摂取量と副腎肥大との間には関係はなかった。テアニン濃度が0.32 mg/kgの場合、テアニンの摂取により副腎肥大は有意に抑制されたが、2倍モル濃度の高いカフェインと等モル比のEGCGを共存させると、テアニンの作用は拮抗した。アルギニン、カフェイン、EGCGのモル比がテアニンに影響することを示した。

●臨床実験

・学生のストレスに及ぼす影響

参加者は1日3グラムの抹茶を500mLの室温の水に懸濁して飲んだ。実習前にテスト抹茶を摂取した被験者のSTAI値は、プラセボ抹茶を摂取した被験者のSTAI値より有意に低かった。実習の8日目には、この2群の平均値の差は小さくなった(p = 0.13)。これらのデータから、テスト抹茶の摂取は実習前の不安の特異的抑制に有効であることが示された。大学ではテスト抹茶摂取により有意に低下した。同様に、薬局実務においても、テスト抹茶群では腺性アミラーゼ活性値が低い傾向にあった。神経の興奮は、翌朝には一般的に低下していた。テスト抹茶は興奮を抑制するのではなく、むしろ回復を調節しているのかもしれない。

・日本と海外で販売されている抹茶の組成の違い

ヒトが1日に3gの抹茶を摂取する場合、テアニンが17mg/gを超える抹茶はストレス軽減効果がある可能性が臨床実験で示されたことから、同様の組成があるか、日本で販売されている抹茶(76サンプル)と海外で販売されている抹茶(67サンプル)の成分を測定した。日本では76サンプル中50サンプルがこの条件を満たしていたが、海外で販売された67サンプルのうち、この条件を満たしたのは6サンプルであった。これに加えて、テアニン/アルギニンと拮抗作用のあるカフェインとEGCGのモル比が2より低いものは、日本では76サンプル中32サンプルで、海外で販売されているものは1サンプルだけだった。

3. まとめ:

心理社会的ストレスの動物モデルを用いて、抹茶成分の量と比率がストレス軽減作用に及ぼす影響を評価した。また、動物実験に基づいて選択した2種類の抹茶で、ヒトに対するストレス軽減効果が確認できた。ストレス軽減効果が期待できる組成を有する抹茶は、国内外で一般販売されている抹茶のうち、国内では42%、海外では1サンプルだけであった。ストレス軽減効果を考慮する場合、抹茶の選定も重要である。

 

4. コメント:

この論文から、抹茶は(茶葉をきちんと選べば)ストレス軽減効果が明らかにあると言えそうです。強いストレスに晒される受験生にとって、短時間で効果が期待できる「呈茶」はストレス解放手段の一つとして非常に有用と思われます。成績に伸び悩む受験生、自律神経系の失調が疑われるほどに追い込まれている受験生は、ぜひ積極的に呈茶を楽しみましょう!

文責 副校長