数学は暗記か?

大学受験の数学において、よく話題に上がるのは、何といっても「数学は暗記か」論争でしょう。私が影響を受けた、高校時代の恩師は、解法を丸暗記して大学に合格したとおっしゃっていました。
 私自身は「数学は暗記だ」とは思ってはいないのですが、同時に「数学が暗記であること」を全否定するつもりもないのです。そもそも、「数学は暗記だ」「数学は暗記でない」の二元論で片づけてしまうことの方が、よっぽど危険だと思っています(近年、二元論で片づける日本人の多さには呆れます)。
 例として、次の問題を考えてみましょう。

問1 1つのさいころを投げて、1回目に出た目をA,2回目に出た目をB,3回目に出た目をCとするとき、
  A<B<Cとなる目の出方は何通りあるか。

 この問題については、すべての場合を書き出しても、全部で20通りしかないので、答えは出ます。しかし、ほとんどの問題集では、以下のように答えを書いています。

答1 1から6までの6個の数から、異なる3個の数を選んで、これを小さい順にA,B,Cとすればよい。
   よって、求める目の出方は6C3=20通り

 私が高校生の頃、この解答を見て「どこからこんな考えが出てくるんだ」と思ったものです。そして、教える立場となって10年以上経過した今でも、「こんな考え方に最初から気がつく生徒はほとんどいないだろう」と思っています。ですから、この問題の解法は覚えてしまった方がいいと思うのです。
では、次の問題はどうでしょう。

問2 1つのさいころを投げて、1回目に出た目をA,2回目に出た目をB,3回目に出た目をCとするとき、A≦B≦Cとなる目の出方は何通りあるか。

 この問題にも、いわゆる「丸暗記型」の解法があります(ここでは紹介しません)。しかし、問1の考え方を応用すれば、以下のように場合分けをして考えることもできます。

答2 A<B<Cのとき,問1より20通り
   A=B<Cのとき,1から6までの6個の数から、異なる2個の数を選んで、小さい方をAとB,大きい方をCとすればよい。よって、場合の数は6C2=15通り
   A<B=Cのとき,A=B<Cのときと同様に15通り
   A=B=Cのとき,目の出方は6通り
   以上より、求める目の出方は全部で20+15+15+6=56通り

 昨今は「思考力入試」の時代と言われていますが、知識がない人間に思考力が身につくはずはありません。
数学でも、知識としてしまった方がいい解き方なんて山ほどあります。しかし、知識としての解き方をどう使うか。これを日々考えていくことが、大学受験数学の学習において必要不可欠なのです。
記:数学科 新保幸希