文章を書くということ ~遠回りは面倒だが役に立つ 番外編2/5~
学級日誌の革命を起こしてやる。
Sは高ぶる気持ちを抑えられなかった。
いよいよ日直が回ってきた日、Sは張り切って学級日誌に文章を綴った。日誌の項目はすべて無視した。項目ごとの枠組みをはみ出してでも、小さな字で書けるだけ書いた。
書きたいことはいくらでもあった。筆圧の強い濃い字で埋め尽くされたページは、少し離れると真黒にしか見えないほどだった。
Sの文章は確かに読まれた。ただ、Sが目論んだように日直の順番が回ってきた級友がすべて目を通したわけではなかった。細かい字を読む気にならなかった者もいたし、真っ黒に近いページに、手が汚れると触れようとしない者もいた。日直として自分が記入するページしか開かない者すらいた。
もちろん、ごく少数ではあったが、おもしろがって読んだ者もいた。私もその一人だ。学級日誌でのSのデビュー作は「体制への反発 学級日誌の枠組みを取り払う」と仰々しいタイトルが付けられていたが、内容はと言えば、あれこれとスタイルを変えて自由に文章を綴る楽しさを伝えるものだった。「虻脳丸(アブノーマル)」の筆名が示すように、確かにSのやることなすことは普通の基準を外れていた。
日直が回ってきた時、私は「今日の感想」欄にSの勇気を讃える一文をしたためた。次の日、私の言葉に応えたSの字が空いているスペースをびっしりと埋めていた。おもしろがった級友が私の真似をしてSの文章に言及すると、その次の日にはSが応えるということが何度か続いた。次回へ続く・・・
記:英語科主任 佐々木晋