漢文の白文に返り点をうつのがどうもうまくいかないケース。

 共通テストや以前のセンター試験、二次試験などで、白文に返り点を打つ問題があります。例えば、「使 後 人 尚 之 如 此。」に、「使(二) 後 人 尚(一レ) 之 如(レ) 此。」というふうに()の部分を書きたす問題です。これに書き下し文が「後人をして之を尚ばしむること此くのごとし」などと付いていると簡単なのですが、それがない場合どこからどう手をつけていいかわからないというケースです。それどころか、そもそもなぜ語の順番をいれかえて、返り点が必要な書き方になっているのかワケがわからない、という疑問もいただきます。
 第一に忘れてはならないのは、漢文の白文というのは古代中国語で、返り点や書き下し文とはその日本語訳である、ということです。返り点が必要なのは中国語と日本語で語順がちがうからで、その意味では返り点は英語にも使えます。
 例えば、I have two balls in my hand.であれば I have(二) two balls in my hand(一) 書き下し文「我(I)、二つの(two)球を(balls)(in=置字)我が(my)手に(hand)持つ(have)。」などという具合です。ここで重要なのは、返り点も書き下し文もやっていることは翻訳で、その限りで別の返り点や書き下し文もありえるという事実です。選択問題で選択肢にでてくるような返り点や書き下し文は訳の一例であって、別の返り点、書き下し文もありえる。誤りの選択肢は語順というよりは内容解釈がダメだ、ということになります。
 こうなると発想の順番がかわります。つまり、白文→返り点つき漢文→書き下し文→現代語訳→内容解釈の順ではなく、白文→構文解釈→内容理解→書き下し文→返り点という順に考察をすすめなければなりません。ようするに返り点の問題というのは単に指定の順番になるように返り点をうつことを要求されているのではなく、白文の解釈・理解を要求する問題だ、ということです。
 例になった「使 後 人 尚 之 如 此」の場合だと1.「使」は使役を示す動詞で、「使(二)A[をして]V(一)」という形をとり「AにVさせる」という意味で、「Aをして、Vしむ」と書き下す。このVに目的語がある場合は、「使(二)A[をして]V(一レ)O」となって、「Aをして、OをVしむ」と書き下す。この場合、A=「後人」=「後の人」Vは「尚」で「とうとぶ」、Oは「之」=「これ」となる。結局、「後の人にこれを貴く思わせる」という意味で、「後人をして、之を尚ばしむ」と読めばよい。2.文末の「如此」は、「このようである」というキマリフレーズで「如(レ)此」と返り点をいれ、「かくのごとし」と読む。3.漢文はSVO文型をとるから、1の部分を全体で主語Sとすれば、「使(二)後人尚(一レ)此、如(レ)此」として、「のちの人にこれを尊重させることはこのようである」と解釈し、「こうじんをしてこれをとうとばしむることかくのごとし」と読めばよい。と先に解釈・理解、構文把握ができたあとに書き下し文をつくって、それに合うように返り点を振ります。
 結局、返り点の問題は内容解釈、構文把握の問題なので、漢文の構文・文法である句法の知識を身につけて、それを問にあわせて実践するということです。返り点がうまく打てない人は返り点の勉強ではなく、句法の勉強をするのが近道というわけです。そうして、句法がわかってしまうと、内容把握の問題も解けてしまうので、結局全部解けてしまうことになります。結論、句法を制するものは漢文を制する、でした。
記:国語科主任 佐谷健児