モチベーションを維持する方法

 格闘ゲームのプロゲーマーに梅原大吾という人がいます。彼は2010年に日本初のプロゲーマーになった後、世界で最も長く賞金を稼いでいるプロゲーマーとしてその界隈で知られています。賞金をたくさん稼いでいる=大会で数多く勝っている=世界で一番強い、ということで一時期世界最強とまで言われた梅原さんですが、過去のインタビューでこんなやりとりがありました。

Q.世界最強になった今でも梅原さんが努力し続けられるのはなぜか?どうモチベーションを維持しているのか?
A. 成長の目盛りを細かくして成長を実感し続ければいい。

 梅原さん曰く、人間が努力し続けられなくなるのは成長を実感できなくなるからだそうです。格闘ゲームで言えば、初心者のうちは「○○というコンボを自在に出せるようになった」「○○というキャラで誰々が使う△△というキャラに勝てるようになった」といったように明確に成長を実感できますが、上級者になればなるほど日々の練習から得られる成果が少なくなります。自分自身のレベルが上がっていて伸びしろが少なくなっている分、それは当然です。結果として「今日1日、何も得るものが無かった、自分の今日の成果はゼロ…」と成長を実感することが難しくなり、努力をやめてしまう、という構造です。
 受験勉強においても似たようなことを感じた人は多いのではないでしょうか。勉強を始めたての頃は、勉強すればするだけ模試の点数が10点→20点→35点と上がっていったり、読めなかった英文が読めるようになったり、明らかな成長を感じられます。しかし、ある時期から成長を実感できなくなる、つまり伸び悩みの時期が来て、いずれ勉強が滞るようになってしまう…。
 このような、成長を実感できなくなって努力をやめてしまう傾向に対して、梅原さんは「成長の目盛りを細かくすることで成長を実感し続ける」という手法で対処していたそうです。格闘ゲームで言えば「○○というキャラの△△という技のカウンターとしてXXという技で対応できてもその後確定で反撃を食らうから出さないようにする」などという風に、自分のその日の進歩をもっと細かい視点、基準で見て成長を実感する。つまり、成長を実感し続けられればどこまでも努力できるからどんなに細かい進歩でも成長と見なす、という発想の仕方です。これが、「成長の目盛りを細かくすることで成長を実感し続ける」という回答の中身です。
 このインタビューの記事を読んだとき、これは受験勉強にも通じるところがあるなと思いました。勉強し続けている限り、理論上学力は上がっていきます。黙々と勉強すればいいのに、手につかない。それは伸びていることがはっきり実感できないからです。それなら、「模試の点数が前回比XX点アップ!」などと派手で圧倒的な成果を成長の基準とするのではなく、地に足をつけて地道に「今週の漢文の授業で演習した過去問は、点数としては先週、先々週と変化はないけど、とりあえず今回の問題では少なくとも疑問と反語の句形の見分け方は身につけたな」というように成長の基準の目盛りを細かくして、自分をうまく乗せる。
 詭弁に思えるかもしれませんが、長い期間の継続した努力が必要な受験勉強では、こんな精神を安定させる考え方も大事だったり、と思います。
記:国語科 木下直樹