用語の意味を正確に理解して学習することの利点について
文法書や教科書で使われている文法用語などの用語を正しく理解し、それを使って勉強することの利点について、私の考えをお話しします。
古文や漢文の表す内容を説明するときに、「難しい」用語を使わずに説明して欲しいと言う人がいます。この場合の「用語」とは、例えば品詞や文の成分(名詞、動詞、副詞、主語、述語…など)を指す言葉や、「句」「修飾する」「受身の句形」といった、文法用語をはじめとした言葉全般を指すものとします。説明の際に使われる用語の意味がわからないから、難しい用語は使わないで欲しいというのがその理由のようです。
ではなぜ指導者は、学習者からしてみれば「ちょっとわかりにくい」用語を使って説明しようとするのでしょうか。それは、当然そうするだけの大きなメリットが、指導者と学習者の両方にあるからです。
ひとつは、そのような文法用語を用いた説明は、類似した他のパターンにも応用できるという点です。例えば、大学受験の漢文で言えば「天帝使我長百獣。(天帝我ヲシテ百獣ニ長タラシム。)天帝が私にあらゆる動物に対して長とさせている。」という文は典型的な「使役」の句形としてよく解説に使われます。この文を説明するときに使われる文法用語は、「使役の句形」「使役の意味を持つ動詞」「兼語」「主述関係」辺りでしょうか。この文を使って使役の句形を説明するとき、それらの用語を使うと次のようになります。
この文は「X使AB。(XがAにBさせる。)」という使役の句形のひとつだネ。使役の意味を持つ動詞「使」を述語として、その直前の名詞の「天帝」が述語「使」の主語となり、使役させる人・モノ(使役の主体)を表すヨ。「使」の直後の名詞の「我」は、述語「使」の目的語で、使役させられる人・モノ(使役の対象)を表すヨ。この時、「我」と後続の動詞「長」との間には主述関係が成り立っており、「我」は「使」から見ると目的語、「長」から見ると主語、という二つの役割を同時にこなしているんだヨ。このように、二つの役割を兼ねている語を「兼語」というんだヨ。つまり、この文は「天帝使我(天帝が私を使役する)」と「我長百獣(私が百獣に対して王となる)」という二つの文が、兼語(=目的語と主語を兼ねる語)「我」を介して一つの文になった形式なんだヨ。楽しいネ。
この説明は、同じ使役の句形「権勧蒙読書。(権蒙ニ勧メテ書ヲ読マシム。)孫権が呂蒙に勧めて書物を読ませた。」にも応用することができます。
この文は「X勧AB。(XがAに勧めてBさせる。)」という使役の句形のひとつだネ。使役の意味を持つ「勧」を述語として、直前の名詞「権」が使役の主体(使役させる人・モノ)、直後の名詞「蒙」が使役の対象(使役させられる人・モノ)を表すんだネ。ここで「蒙」は「勧」の目的語と「読」の主語を兼ねる兼語だネ。だからこの文は「権勧蒙。(孫権が呂蒙に勧める。)」と「蒙読書。(呂蒙が書物を読む。)」が一つになった文で、「孫権が呂蒙に勧めて書物を読ませた。」という訳が正しいネ。「孫権が書物を読む」という意味には絶対にならないヨ。
これらの二文をそれぞれバラバラに異なるものと捉えていると、覚える負担は単純に1+1で2です。しかし、一見異なるものに見える前出の二文を、文法用語を介して共通点を見出すことができれば、理解するのに必要な負担はかなり軽減されます(1.5くらいにはなるはずです)。このように、文法用語を織り交ぜた説明は、学習者が類似の項目を理解するときの負担を軽減できる、というメリットがあります。指導者からすると、一貫した説明が可能になるというのが良い点でしょうか。
用語を正しく理解し、それを使って学習することの利点は他にもあります。
文法用語は、いわばその言語を学ぶ際の共通語で、多くの指導者が用いる言葉です。参考書の説明、問題集の解説、模試の解説、映像授業の説明……などなど。それらの用語を正しく理解していれば、目の前の問題集の解説を読んで自力で理解することができるようになります。もし仮に理解できなかったとしても、「自分がこの説明を理解できないのは、○○という分野の◇◇の内容がわかっていないからだ」といった具合に、解説で用いられている言葉(用語)を頼りに、手持ちの文法書で調べることができます。人に質問する場合でも、不明点が明確になっている分、解決に掛かる時間も短くて済み、勉強の効率も上がります。要するに、勉強の効率が格段に上がるという利点があるのです。
文法用語をはじめとした各種用語は、抽象的で一見難しいもののように見えますが、一度正確に理解できれば、勉強するときに上記のようなたくさんのメリットが得られる、非常に便利なモノです。「先生に説明してもらったら理解できるけど、自分で解説を読んでも意味がわからないし、内容が頭に入ってこない」とお困りの人は、説明によく使われる基本的な用語がわかっていない(主観ですが、そのような人は品詞を理解していないことが多い印象です)可能性がひとつとしてあります。「教えてもらわなければできない」という状態から「自力で調べて自分で勉強を進めていける」という状態へレベルアップしたい人は、まずはよく使われる用語の意味を正しく理解することから始めてみてはいかがでしょうか。
文:国語科・木下直樹