文章を書くということ  ~遠回りは面倒だが役に立つ 番外編4/5~


Sの心意気は冷ややかな目で見られていた。全学中の船出は前途多難というよりなかった。

そんなある日、Sが私のところに来て、
「きみに書いてもらいたいんだ。何でもいいから、一行でも二行でもいいから書いてくれないか。本当に何でもいいから」
 と言って、ノートを差し出した。

「文章を展開していこう」と書かれた表紙の裏には全学中の会員が列記されていた。会員番号1番はもちろんSで、2番が中学二年生のSの弟、3番が小学六年生の妹で、それで全会員だった。ノートの本文は最初の十ページがSの字で埋まり、次に弟が嫌々ながら五行書き、妹が頑張って半ページ埋めていた。

 それが、Sが革命と呼んでいた裏学級日誌であり、全国学級日誌中毒者連盟の姿であった。のちにこのノートが札幌じゅうの高校生の話題になるとは、この時点では誰が予想できただろう。Sの弟と妹さえもが一躍有名人になるなんて誰も考えもしなかったことだ。

会員番号4番となった私が悪戦苦闘して1ページほどの文章を書くと、Sがそれに対するとても長い感想文を書き連ねた。よくもまあ流れるように大量の文章を書けるものだと脱帽するよりなかった。その文才は羨ましいほどだった。

そのあとSは別の級友に「何か書いてくれないか」と頼みまわっては少しずつ全学中の会員を増やしていった。自分のクラスでひと通り勧誘が終わると、今度は隣のクラスでスカウト活動を始めた。そうやって同学年の十クラスを回り切った。まるで新興宗教の布教活動のようだ、と会員番号16番がノートに記したほどだ。

そうこうしているうちに、会員番号29番が自分の妹に全学中ノート(裏学級日誌と呼ぶべきか)を見られ、興味を抱いた妹が自分の通う高校に持っていき、新しもの好きの級友が好き勝手に書き始め……、というような出来事が続いて、名前だけの幽霊会員を含めると、全学中の会員数はそれこそ雪だるま式に増えていった。次回へ続く・・・

記:英語科主任 佐々木晋